病院に勤務していると、患者さんと話し寄り添う時間はほとんどなく、日々のルーティンワークをこなすことが精一杯ですよね。
訪問看護では訪問時間の枠はありますが、その時間内は利用者さんや家族としっかりと向きあった看護ができます。
しかしひとりで訪問する以上、自分のみで判断する場面が多くあり、大きなプレッシャーを感じます。
また要介護状態の利用者さんの入浴や排泄などの介助もひとりで行うため、体力的にもかなり大変です。
私は訪問看護ステーションに5年間ほど勤務していた経験があります。
これまでに病院、デイケア、特別養護老人ホームの職場を経験してきましたが、一番やりがいを感じたのは訪問看護の仕事です。
病院での看護のあり方に疑問や不満を感じているなら、訪問看護に挑戦してみてほしいです
この記事では、私が訪問看護師として働いてきた経験や訪問看護のメリットとデメリット、向いている人と向いていない人などについてお伝えします。
訪問看護とは
訪問看護とは看護師が利用者宅に訪問して、主治医の指示に基づき療養上で必要なケアや医療行為を行うサービスです。
仕事内容は健康管理からターミナルケアまで幅広く、バイタルチェックや医療的な処置、医療器具や機器の管理、生活援助など様々です。
病院では治療がメインとなりますが、訪問看護では治療と生活支援の両方がメインとなります。
訪問看護師の仕事内容
訪問看護の利用者さんは病状が安定している方がほとんどで、病院に比べると医療的なケアは少なく、看護より介護がメインとなる方も多いです。
1件あたり20、30、60、90分のいずれかの訪問時間で1日4~5件を訪問し、夜勤はありませんが夜間や休日の緊急時に対応するためオンコール体制をとっています。
提供することが多い看護
- 病状の観察
- 医療処置:点滴、注射、カテーテル管理(胃ろう、膀胱留置カテーテルなど)、褥瘡処置
- 医療機器の管理:人工呼吸器、在宅酸素
- 薬の管理
- 身体介護(食事や排泄、清潔介助など)
- リハビリ:拘縮予防、嚥下機能訓練など
- ターミナルケア
- 家族への介護支援・相談
訪問以外の事務所内での仕事
- 訪問看護記録の記入
- 主治医やケアマネジャーなどの連携機関への連絡や相談
- 訪問看護計画と訪問看護報告書を月に1回作成し、主治医に提出する
訪問看護を受ける対象者
訪問看護の対象者は、医師が訪問看護の必要性を認めた方です。
- 65歳以上で要支援・要介護の認定を受けている
- 40歳以上65歳未満で16特定疾病の対象者か、要支援・要介護の認定を受けている
- 40歳未満で医師が訪問看護の必要性を認めている
厚生労働大臣が定める疾病等の末期の悪性腫瘍や難病、人工呼吸器を使用している方などは、介護保険の対象外となり医療保険が適用されます。
訪問回数と時間
訪問回数は介護保険と医療保険で異なります。
介護保険
利用制限はなく、20分未満、30分未満、30分以上60分未満、60分以上90分未満のいずれかを選択。
医療保険
週に3回まで、1回につき30分以上~90分以内。
厚生労働省が定める疾病等の場合は週4回以上、かつ1日に2~3回の利用が可能。
訪問看護師として働くメリット・デメリット
病院で働くメリット・デメリットと相反する部分が多くあります。
メリット
- 夜勤がなく、休日が固定している
- 日勤のみでも給与が高め
- 利用者や家族とゆっくり関われる
- 幅広い知識や技術が身につく
夜勤がなく、休日が固定している
夜勤がなく日勤のみなので、規則正しい生活が送れて生活リズムも整います。
土・日曜日が休みのところが多いですが、利用者の状態によっては休日出勤もあります。
休日が固定しているので、病院のように「シフト表が出るまで来月の予定が立てられない」ということもありません。
日勤のみでも給与が高め
令和2年度介護事業経営実態調査結果では、訪問看護師の給与水準は以下のようになっています。
常勤看護師の月給: 440,368円
非常勤看護師の時給: 2,197円
夜勤手当がない分、病院よりは給与額が低いですが、日勤のみと考えれば高い金額だと思います。
利用者や家族とゆっくり関われる
病院ではひとりで数人の患者さんを担当するため、ひとりの患者さんに長時間かかわることはできません。
しかし訪問看護では契約の時間内は利用者さんにしっかり向き合い、ゆっくりと関わることができます。
看護師との会話を楽しみにしてくれている利用者さんや家族が多くいます。
話をしながらケアをする…口と手を同時に動かしながら、忙しく楽しく働いてました
幅広い知識や技術が身につく
病院では診療科ごとに病棟が分かれていますが、訪問看護では基本的にどのような疾患の方でも受け入れており、いろんな疾患について学ぶことができます。
医療行為は病院より少ないですが、医療的なケアが必要な利用者さんは常にいます。
訪問看護ではいろいろな経歴をもつ看護師と働けるので、それぞれに得意分野があったり経験談もきけるなど、勉強になることがいっぱいありました。
デメリット
- オンコールがある
- 自分ひとりで判断する場面が多い
- 感染対策が難しい
- 利用者や家族との関係が密になり過ぎる
オンコールがある
夜間や休日の緊急時にはオンコール体制をとっており、自分が担当の日は不安やストレスを感じます。
スタッフが少人数だとオンコールを担当する回数が増え、ターミナルや医療依存度の高い利用者がいるとオンコール対応の頻度は多くなります。
自分ひとりで判断する場面が多い
入職後しばらくは先輩看護師が同行訪問してくれますが、いずれはひとりで訪問することになります。
病院のように医師や看護師など傍に報告できる人がいないため、訪問中に判断に迷うことがあってもすぐに相談ができません。
もちろん電話で相談できますが、一刻を争う緊急時には救急搬送を要請することもあります。
みんな同じ経験をしているので、疑問や心配なことはスタッフに遠慮なく相談しましょう!
感染対策が難しい
病院の新型コロナの感染対策では、患者さんの隔離や面会者の制限などで感染経路を遮断し、感染予防に必要な用具が整備されています。
しかし家庭では病院と同じレベルの対策は難しく限界があります。
看護師は感染予防対策をして訪問しますが、マスクやフェイスシールド、防護エプソンを装着した状態でのケアは想像以上に体力を消耗します。
利用者や家族との関係が密になり過ぎる
ゆっくりと利用者さんや家族に向き合えることがメリットである反面、それが行き過ぎると馴れ合いになってしまいます。
短いサイクルで患者さんが入退院する病院と違い、訪問看護は数年単位のお付き合いになる利用者さんが少なくありません。
お付き合いが長くなると親密になるのは当然で信頼関係があるともいえますが、看護師という立場を忘れずに適切な関係性を維持することが必要です。
担当者は定期的に交替しますが、前の担当者との関係が親密過ぎると、交替がスムーズにいかないこともあります
訪問看護に向いている人、向いていない人のタイプ
ひとりでの訪問や車の運転などが、最初のハードルになりやすいです。
向いている人のタイプ
- 判断に困ったときには、すぐに報連相ができる
- 利用者さんや家庭環境に応じた、柔軟な対応ができる
- コミュニケーションが好き
- 夜勤や残業がない生活を送りたい
判断に困ったときには、すぐに報連相ができる
最初の頃は訪問先で判断に困ることが多くありますが、自分ひとりでなんとかしようと思う必要はありません。
きちんと報連相ができれば、自然と適切な対応ができるようになります。
利用者さんや家庭環境に応じた、柔軟な対応ができる
病院のように設備が整っていないので、利用者さんの状態や家庭環境に合わせたケア方法が求められます。
入浴介助ひとつにしても、たとえば利用者さんは片麻痺があり、立位が不安定、浴室は入口に段差がある、浴槽が高くて跨げない、手すりがない、などの条件を考慮して、それぞれに合わせた入浴方法を考えることが必要になります。
各家庭それぞれの使用物品の位置、準備や片付けの方法、ケアの手順など、最初は覚えることがいっぱいあります
コミュニケーションが好き
訪問看護では利用者さんと関わる時間が長いので、コミュニケーションをしっかりとることができます。
雑談も楽しいですが、会話をとおして情報収集しながら相手のニーズを考えるなどのコミュニケーションスキルが必要です。
夜勤や残業がない生活を送りたい
訪問看護のシフトは日勤のみで休日も固定しているので規則正しい生活が送れます。
残業はゼロではありませんが、ほとんどありません。
基本的に訪問は勤務時間内に組まれているので、訪問から戻れば日々の訪問看護記録をかいて退勤になります。
向いていない人のタイプ
- ひとりでの訪問は不安
- 体力に自信がない
- 車の運転が苦手
- 給与を下げたくない
ひとりでの訪問は不安
ひとりで訪問するため、病院のように相談したいときには誰かしらがいる、ということはありません。
電話で相談できますが、緊急時には自分で判断する場合もあるため、すぐに相談できないのはどうしても不安な方は、病院勤務の方が向いているかもしれません。
体力に自信がない
訪問看護では身体介護などのケアをひとりで行うため、かなり体力を必要とします。
要介護状態に応じて電動ベッドや移乗用のリフト、手すりなどの介護用品を使用し、ケアの負担軽減をはかっていますが、看護師ひとりでは対応が難しいケースがあります。
看護師は慢性的な腰痛などからだの不調を抱えている方が多いので、無理は禁物です!
車の運転が苦手
都市部では徒歩や自転車で移動することもありますが、車の運転ができることは必須です。
狭い道や停めにくい駐車位置にも対応しなければならず、一定レベルの運転技術が必要なので、運転が苦手な方は訪問できる場所が限られるかもしれません。
給与を下げたくない
訪問看護は夜勤がなく残業も少ないので、病院勤務で夜勤や残業手当が多かった方は給与が少ないと思うかもしれません。
しかし訪問看護ステーションによって給与水準の差があるので、病院と大差ないところもあります。
私は病院から訪問看護ステーションに転職したとき、給与額はほとんど変わりませんでした
訪問看護を始める前に必要なスキルと学び
訪問看護師になるために、特別に必要なスキルや資格、経験などはありません。
以前は「最低でも3年以上の臨床経験が必要」といわれましたが、最近は新卒や20代で訪問看護師になる人も増えています。
ちなみに私も20代で訪問看護師してました
学びとしておすすめすることは、訪問看護の見学と同行訪問です。
研修の受講も有益ですが、とりあえずはひとつの受講で十分でしょう。
- 訪問看護ステーションの見学・同行訪問
- eラーニングを受講
- 訪問看護師養成講習会を受講
- 訪問看護師基礎研修会を受講
訪問看護ステーションの見学・同行訪問をさせてもらう
訪問看護ステーションの見学や同行訪問では、実際の仕事内容や雰囲気を知ることができます。
私も入職前に同行訪問をさせてもらいましたが、これがきっかけで就職を決意したので、ぜひおすすめします。
訪問に向かう車の中でいろんな裏話をきけたのも楽しかったです
eラーニングを受講する
日本訪問看護財団が実施している「訪問看護eラーニング~訪問看護の基礎知識~」では、訪問看護の基礎的知識が学べます。
内容は訪問看護師を目指す方や訪問看護初心者の方向けになっています。
eラーニングは、インターネットを使ってパソコンやタブレットを通して学習する方法です。
インターネットが利用できる環境であれば、自分の生活スタイルに合わせて、いつでもどこででも学習できます。
わからないことがあれば、担当者に質問や相談ができる体制となっているので安心です。
受講料は個人申込の場合16,500円、都道府県看護協会等経由の場合14,300円となっています。
訪問看護師養成講習会を受講する
都道府県看護協会では、訪問看護に従事している人や訪問看護師を目指す人を対象とした「訪問看護師養成講習会」を実施しています。
講習会の内容には、講義や演習、 e ラーニング、実習などが含まれます。
それぞれの看護協会によって、研修日程や受講料などの開催概要は異なるので、看護協会のホームページで確認してください。
訪問看護師基礎研修会を受講する
他には全国訪問看護事業協会による「訪問看護師基礎研修会 ~訪問看護の第一歩~」があります。
訪問看護における接遇やリスクマネジメント、家族支援などについて学ぶことができます。
ライブ、オンデマンド配信で年に3回実施されており、受講料は会員が17,000円、非会員が26,000円となっています。
私の訪問看護師としての経験談
私は20代後半のときに病院から訪問看護に転職しました。
看護学生の頃から訪問看護に興味がありましたが、今のように新卒で雇用してくれる訪問看護ステーションはなく、数年の臨床経験を積んでからの就職となりました。
市内に3か所の拠点がある財団法人の訪問看護ステーションで、スタッフは15名ほど、半数以上がパート職員、平均年齢は40代半ばくらいでした。
オンコールは所長が基本的には対応し、対応できないときはスタッフに頼む、という形だったので、オンコールのストレスはほとんど経験していません。
土日祝日が固定休で夜勤のない働き方になり、健康的な生活リズムになりました
訪問件数は午前2件、午後3件が平均的で、利用者は健康チェックと軽いリハビリ程度の自立度の高い方から、ターミナルの方まで本当にさまざまでした。
人工呼吸器やCVポート点滴の管理が必要な方は、人数は少ないものの継続的にありました。
医療処置では褥瘡処置、膀胱留置カテーテルの管理、喀痰吸引はかなり多かったです。
入浴介助はとても多くて、入浴介助の訪問が続いた日はヘトヘトでした
私の印象としては、訪問看護師は穏やかなタイプの人が多く、病院と比べると人間関係で悩むことは少なかったです。
まとめ
この記事を読んで「訪問看護って良さそう」と興味をもたれたら、ぜひ訪問看護ステーションの見学に行き実際の現場を見てください。
病院看護との違いに驚かれると思いますが、患者さんと1対1でしっかり向き合える訪問看護は、看護の基本に立ち返ることができます。
もし訪問看護師を辞めても、在宅医療や看護の現場で得た経験はとても有益になります。
私は病院の地域連携室で退院支援を担当していたときに、訪問看護の経験を活かして病院と在宅の両面からみた視点で退院調整ができました。
訪問看護ステーションで一緒に働いた同僚には、勤続20年以上の方が多くおり今も現役です!
長く働き続けられるのは、それだけ魅力的な仕事といえるでしょう。
訪問看護の需要が高まっていくことは確実なので、将来性のある分野だと思います
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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